本の紹介「妻を帽子とまちがえた男」


先日、抗精神病薬について書かれた本をながめていたら、良本として「妻を帽子とまちがえた男」という不思議なタイトルの一冊が取り上げられていました。
 
これは作り話ではなく、男性は脳の病気によって、妻の頭を持ち上げてかぶろうとしたというのです。驚いた私はすぐに図書館で借りて読んでみました。
 
 

 
著者のオリバーサックスはロンドン生まれの神経学医です。様々な患者と出会ったオリバーはこのようなことを本で話しています。

---病気には始まりがあり、終わりがある。この「病気の歴史」にはこれまで「誰が」が書かれていなかった。病に負けまいと闘う当人のことや、その中で経験したことについては何も伝えていない。もっと掘り下げて、ひとりの患者の物語にする必要がある。(要略)---

この本はオリバーが診た患者たちを、24の短編で紹介しています。

・19歳以降の記憶が失われている中年男性
・「左」を認識できず、顔の右半分しか化粧をしない女性
・てんかん発作で忘れていた過去が蘇る人
・知的障害により計算はできないけれど、20桁の素数を言える双子…

薬や病気の参考書を読んだ時には決して知ることのできない、「ひとりひとりの病の物語」が強烈に印象に残ります。オリバーが患者に寄り添い、症状だけでなく人柄も丁寧に観察しているからこそのお話です。

はじめは奇妙な症状に興味を抱いて読み始めたのに、失った機能を補うべく変化していくからだの不思議や、脳の機能とは関係なく誰にでも純粋な心があるということに考えさせられました。

医療従事者としての姿勢を振り返る一冊になりました。(Si)